NMR分光法において、1Hと13Cのような核間の異種核スピン-スピン結合は豊富な化学構造情報を提供します。しかしながら、時には情報が多すぎることや1H-1Hスカラーカップリングのような競合する情報に惑わされることが問題となります。複雑なNMRスペクトルを単純化したり、結合定数の測定を容易にしたりするため、これまで長年にわたって、数多くの非常にエレガントで興味深いNMRの手法が開発されてきました。これからいくつかの投稿を通して、最も重要で汎用的な方法に関する簡単な概要を提示しようと思います。最初の投稿では、数ある実験手法の中でも最もシンプルな選択的デカップリングを高分解能13Cスペクトルに使用した例を示します。以下に示すデータはROYAL-HFXプローブを備えた3チャンネルの JEOL ECZ-500分光計で測定し、JASONソフトウェアによって解析を行ったものです。
二重共鳴法
二重共鳴NMR(デカップリング)のアイデアはNMRが出始めた頃にWeston A. Andersonの論文の中で生まれました。そのWes(Weston)の仕事を含み、1950年代初頭(化学者がNMRを見つけた頃)のNMRに関する非常に良いレビューにRay Freemanのブログ(http://ray-freeman.org/nmr-history.html)があります。この文章は、啓蒙的で歴史的に重要なだけでなく、読んでいて非常に楽しいものでもあります。
パーフルオロ分子の例
単純なフッ素化合物を用いて、二重共鳴法を使った結合定数を測る応用例について説明しましょう。ここで答えなければいけない問題というのは“F2, F5, F6からそれぞれの炭素へ複数見られる19F-13C結合定数の値は何なのか?”ということです。この問題の答えを得ることは信じられないほど簡単です!まず、F2, F5, F6いずれかに選択的19Fデカップリングを行った3つの13Cスペクトルのデータセットを取得します。次に、デカップリングをしていない13Cスペクトルと比較し、目的の結合定数の情報を入力した表を作成します。
(1) 手短にとった 1D 13Cは様々な選択的デカップリング条件で取得しました。赤い矢印は各スペクトルにおいて直接結合している13Cの位置を示しています。
この3つの選択的19Fデカップリング実験で、すべてのJFCを完全に決めることができます。
注目する炭素の信号を中心にスペクトルを拡大すると、全てのカップリングが明確に、また簡単に抽出できます。例として、2つの拡大スペクトルを示します;1つはフッ素に直接結合したC-5、もう1つは四級炭素のC-4です。
(2) C-5(150.429ppm)の各19F選択的デカップリングスペクトル
(3) 四級炭素C-4(90.881ppm)の各19F選択的デカップリングスペクトル
最後に、19F-13Cカップリングと例に挙げた分子すべての帰属を記した表を示します。
結論
この投稿で私は、NMR草創期に生まれた実験技術を再訪し、それは簡単であるがより複雑な問題にも対応できる効果的な方法論として当時の開拓者たちによりもたらされたことを示しました。
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